全国民「一律10万円給付」へ、安倍政権「軌道修正」のウラの暗闘

らんまる

公明党と二階氏の水面下の動き


自民党の二階俊博幹事長が4月14日、国民1人当たり10万円を支給するよう、政府に要求した。減収世帯当たり30万円の給付金を盛り込んだ2020年度補正予算案の国会審議が始まらないうちに、与党幹事長が政府に新たな要求をするとは、異例の展開だ。これを、どう見るか。


まず、事実関係を確認しよう。


二階氏は会見で「一律10万円の現金給付を求める切実な声がある。できることは速やかに実行に移すよう、政府に強力に申し入れる」と語った。ただし「所得が多い方々に給付する財政的なゆとりはない」と語り、所得制限を導入する考えを示した。


舞台裏で動いていたのは、公明党である。


4月16日付の読売新聞によれば、公明党の斉藤哲夫幹事長が前日の14日に二階氏と会談し、減収世帯に30万円の給付金案について「対象が小さい。非常に評判が悪い」と訴えた、という。これを受けて、二階氏がさっそく動いた形になった。


公明党の山口那津男代表の動きも早かった。翌15日に官邸を訪れ「所得制限なしで国民1人当たり10万円の支給」を実現するよう、安倍晋三首相に申し入れた。首相は「補正予算案を速やかに成立させたうえで、方向性をもって検討したい」と応じた。


公明党は補正予算案から30万円の給付金を削除して、代わりに一律10万円の支給を盛り込むよう、予算案の修正を求めている。政府は週明け20日に補正予算案を国会に提出し、週末までには可決成立させたい意向だ。


メンツを潰すのも厭わず


異例の展開は、ほかにもある。


菅義偉官房長官は14日、会見で減収世帯向け30万円の給付要件を見直す考えを表明した。給付は世帯主が減収になった場合を想定しているが、世帯主以外の人が生計を支えている場合もあるので「事情を踏まえた対応が可能になるよう検討する」という。


すると、麻生太郎副総理兼財務相は直ちに会見で「世帯主でないと、奥さんの稼ぎのほうが旦那より大きい、という家もある。個別にやり始めたら、スピードは間に合わない」と見直しに消極的な姿勢を示した。政府内で足並みがそろっていないのだ。


以上の展開をどうみるか。


二階氏は公明党にせっつかれて動いたように見えるが、それだけとも思えない。なぜなら、このタイミングで国民1人当たり10万円の支給をぶち上げれば、二階氏が「政府が決めた経済対策では不十分」と政府を批判したも同然になるからだ。


さらに、そんな対策をとりまとめた自民党の岸田文雄政調会長に対する批判にもなる。岸田氏としては「顔を潰された」も同然だ。だからこそ、岸田氏は石田祝稔・公明党政調会長との会談で、予算修正に頑として応じなかった。


二階氏は岸田氏の面子が丸つぶれになるのもおかまいなしに、政府の対応を批判したのだ。同じように、菅氏も財政を預かる麻生氏と事前の調整なしに、給付要件の見直しをぶち上げた。2人の会見が同じ14日というタイミングも、意味深長だ。


「ポスト安倍」をめぐる争いか


政府の要である菅氏の見直し発言は、さすがに予算修正までは踏み込んでいないが、内容次第で必要になる財源が増える可能性もある。そんな案件を麻生氏に諮らずに打ち出したとなると、それなりの覚悟を決めて語ったのではないか。


経済対策をまとめた岸田氏の背後には財務省がいる。一方、安倍官邸を経済産業省が仕切っているのは周知の事実だ。そうだとすると、一連の動きは二階・菅ラインが公明党を巻き込んで、財務・経産両省が影響力を強める安倍・麻生ラインに軽くジャブを放った、と言えなくもない。


この展開が見逃せないのは、話は経済対策にとどまらず「ポスト安倍」をめぐる駆け引きに直結しているからだ。安倍、麻生両氏は岸田氏を推している。対して、菅氏は岸田氏について「選挙の顔にならない」と周囲に語り、消極的と報じられてきた。


二階氏は自分と同じ、たたき上げの政治家である菅氏を高く評価している。そんな二階氏が菅氏と連動して、岸田氏の揺さぶりに出たように見えるのだ。今回の現金給付が、どんな形に落ち着くか。それは、今後の安倍政権とポスト安倍の行方を占うかもしれない。


いずれにせよ、新型コロナウイルスの直撃を受けた国民や事業者は、焦りと苦悩の色を深めている。野党は「一律10万円支給はオレたちが言ってきた話だ。予算を組み替えるべきだ」と足並みをそろえている。


と、まさにここまで書いたところで、安倍首相が「予算修正の意向を固めた」という速報が流れてきた。となれば、これまた異例中の異例の展開だ。これを深読みすれば、首相は二階氏との衝突を嫌って、ギリギリのところで軌道修正を図ったように見える。


首相が予算修正に応じれば、当初の判断が誤りだったことを認める形になる。だが、それよりも二階氏や公明党の意向に沿わないことで、政権の屋台骨が揺らぐのを恐れたのではないか。所得制限についても、もうけない方向という。スピード最優先で考えれば、正しい判断である。


コロナ禍、ピークはいつ来るか


さて、肝心の感染拡大はどんな状況なのか。


先週のコラムで紹介した英フィナンシャル・タイムズ(FT)の各国感染グラフ(https://www.ft.com/coronavirus-latest)の最新版(4月15日版)を下に紹介しよう。縦軸は対数で表した感染者数、横軸は感染者が最初に平均30人を超えてからの日数である。

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