北朝鮮が「賄賂撲滅」開始も、逆に体制崩壊を招きかねない理由

今度は「賄賂社会」“撲滅”で 動き出した金正恩氏の真意
新型コロナウイルスの感染の深刻化がいわれる北朝鮮だが、またひとつコロナを凌駕するほどの深刻な「病」をめぐる問題が起きている。
2月末には、朝鮮労働党中央委員会幹部などの間で「特権、不正・腐敗行為があった」と現職の党副委員長2人が解任され、3月に入っても連日のように、労働党機関紙や国営通信では「腐敗撲滅」や「全社会的な道徳建設」のキャンペーンが続いている。
長年の「賄賂社会」に対する民衆の不満爆発が拡大しかねない情勢に、金正恩委員長自らが動き出した。
朝鮮中央通信によれば、正恩氏は17日、平壌総合病院の着工式で久しぶりに姿を見せ「人民大衆第一主義」や「滅私服務」を強調したというが、3月に入ってからは平壌を離れ、日本海側の江原道元山付近の専用別荘にいることが多い。背景にはコロナ対策だけでなく民心の不穏な状況も影響しているようだ。
● 発端は高級党学校教授の自殺 「賄賂を強要する生活に疲れた」
発端となる事件は昨年11月、平壌で起きた。
首都平壌の東平壌地区にある高層ビルから1人の党幹部が身を投げた。ビルの入居主は金日成高級党学校。朝鮮労働党の最高教育機関だ。自殺したのは、この高級党学校の教授だった。
北朝鮮で権威と呼ばれる学者は、大別して金日成総合大学系、科学院系、そして金日成高級党学校系のいずれかに属している。いわば、高級党学校は北朝鮮が誇る3大思想体系の1つで、「最高指導者以外は全て教育の対象にする」とまでいわれている。
そんな権威ある党の教育機関で何が起きていたのか。
自殺した教授は遺書を残していた模様で、毎月5000ドルの賄賂を集めるノルマ漬けの生活を悲観して亡くなったことがわかった。
なぜ、高級党学校の教授が賄賂を集めるノルマを科されていたのか。
金日成高級党学校には、朝鮮労働党の専従として働く幹部らが入校する。そこでは1カ月から3年、5年といったさまざまな教育カリキュラムが準備されており、党の方針や歴史、思想などを学ぶ。
党専従は地方自治体、企業所、軍など、北朝鮮の中枢のありとあらゆるところで働いている。所属した組織内部で昇進したり、より大きな組織に移ったりする際、高級党学校で教育を受ける。
より高いポストに就くにはここで教育を受けることが必須であり、不祥事を起こして再教育が必要とされる場合もある。
受講生にとって何より重要になるのは、教授たちが作成する評価表だ。
教授が一言、「最高指導者への忠誠心に問題がある」と書き込めば、昇進どころか政治犯収容所に送り込まれることにもなりかねないからだ。
そしてそこに、賄賂が生まれる。教授たちは、無難な評価表を作成する代わりに賄賂を徴収する。自殺した教授は、賄賂を半ば強要して生きていく生活に疲れたのだという。
この問題は、平壌の人民文化宮殿で総括会議が開かれ、いったん昨年末で決着したかに見えた。学校職員ら関係者が大衆党論を行い、何が問題だったのか、自己批判や相互批判を行い、二度とこのような問題を起こさないと誓い合った、という。
だが、問題はこれで決着しなかった。
● 党副委員長2人を解任 市民の怒り爆発に対応
朝鮮中央通信は今年2月29日、金正恩党委員長も出席して、党中央委員会政治局拡大会議が行われたと報じた。
その際、「党中央委員会幹部と党幹部養成機関(高級党学校)活動家の間で非党的行為と権勢、特権、官僚主義、不正・腐敗行為があったことが指摘、批判され、李万建、朴太徳の両党副委員長が現職から解任された。不正・腐敗行為があった党幹部養成機関の党委員会の解散、処罰の適用に関する決定が採択された」と伝えた。